著者 稲葉剛
■――どんな本
「ホームレス」「ネットカフェ難民」「派遣切り」「たまゆら火災」「宿泊所ビジネス」「追い出し屋」・・・
みんな「住まいの貧困」が問題だ!
ワーキングプア(働いても働いても抜け出せない貧困)と手をたずさえて、ハウジングプア(住まいの貧困)が、生活を不安定で困難なものにしている。
―――〈もやい〉で生活困窮者の自立支援を続ける筆者が、ハウジングプアという概念で貧困の実態をとらえ、解決への展望を語る。
四六判・並製、228頁
ISBN978-4-903295-24-4 C0036
定価 1800円+税
発行 山吹書店 2009年
発売 JRC
■――目次
はじめに
第1章 ハウジングプアとは何か
1 ネットカフェ難民から「ハウジングプア」へ
2 「ハウジングプア」とはどういう状態か
第2章 なぜハウジングプアは拡大したのか
1 ワーキングプアの拡大
2 定期借家制度の導入
3 家賃保証会社の参入
4 派遣会社と家賃保証会社
5 公的介入の不在と居住権の後退
6 経営の論理と家計の悪化
◎ハウジングプアという体験①
「死ぬかホームレスになるしかない」
ワーキングプアであるがゆえにハウジングプア状態に陥り、
「追い出し屋」による取り立ての被害を受ける人々が増えている。
自分の部屋に二度にわたって侵入された三十代の男性は、
当時を「アリ地獄」のようだったと言う。
第3章 ハウジングプアに対する行政の支援策
1 「山谷対策」
2 「路上生活者(ホームレス)対策」
3 いわゆる「ネットカフェ難民」対策
4 いわゆる「派遣切り」対策
5 公共賃貸住宅の現状
6 総合的ハウジングプア対策の不在
◎ハウジングプアという体験②
「俺には二つの名前がある」
路上生活者のなかには戦災で家族を失ったという高齢者もいる。
現在も新宿駅周辺で路上生活を続ける七十代の男性は、
九歳の時に空襲にあい、家と家族と本来の名前を失った。
その後の人生の大部分を他人の名前を使い、
ハウジングプア状態のまま暮らしてきたと彼は言う。
第4章 ハウジングプアと生活保護制度
1 生活保護への三つの壁
2 民間宿泊所はなぜ拡大したのか
3 「施設保護」はなぜ問題なのか
4 「直アパート」の動きとその波紋
◎ハウジングプアという体験③
「いつも無理して働いてきた」
各地の建築現場を転々としながら働いている日雇労働者は今もたくさんいる。
現在はホームレス支援雑誌を販売する五十代の男性は
体調が悪化し、相談に行った福祉事務所の窓口で生活保護の申請をさせてもらえなかったため、
住まいを失った経験を持つ。
第5章 高齢ハウジングプア問題
1 「たまゆら」火災事件から見えるもの
2 もう一つの「ブラックボックス」
3 賃貸住宅から排除される高齢者
4 誰が生活保護行政を孤立させたのか
◎ハウジングプアという体験④
「この家にいるよりホームレスになった方がまし」
家出をして東京に向かう若者のなかには、
不適切な家庭環境から逃れるために家を出た人も多い。
二十代で家を出て、野宿を経験した女性は、
まわりの人々の支えもあって、自分自身の家を確保することができた。
だがその道のりはけっして平たんではなかった。
第6章 ハウジングプアに対する民間の取り組み
1 「遠心力」と「求心力」
2 借地借家人組合
3 「追い出し屋」被害への取り組み
4 自前の住宅を確保する動き
5 住まいの貧困に取り組むネットワーク
◎ハウジングプアという体験⑤
「つながりだけでは人の体は生きていけない」
一九九八年二月、新宿駅西口「ダンボール村」で火事が発生し、
四人のダンボールハウスの生命が奪われた。
「ダンボール村」を外から守ることだけに邁進していた私たちの活動は大きな転機を迎え、
私はハウジングプアという問題と向き合わざるをえなくなった。
第7章 ハウジングプアをなくすために
1 住宅政策の一元化とハウジングプア問題の全体像の把握
2 公共住宅政策の拡充
3 「追い出し屋」への法的規制と公的保証制度の確立
4 民間賃貸借住宅への家賃補助制度を
5 生活保護制度と住宅政策の連携
あとがき
■――著者紹介
稲葉 剛(いなばつよし)
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。
学生時代から平和運動、外国人労働者支援活動にかかわり、1994年から新宿での路上生活者支援活動に取り組む。
2001年、湯浅誠らとともに自立生活サポートセンター・もやいを設立。生活困窮者の支援を続けるかたわら、各地の学校や地域で貧困問題と人権をテーマにした講演をおこなっている。
著書に『貧困のリアル』(冨樫匡孝との共著、飛鳥新社、2009年)など。1969年広島県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。